貿易にたずさわる家に育ち大変に食いしん坊であった私は、両親の期待をよそに、突然ヨーロッパへ飛び出してしまいます。あてもなく言葉も分からず、その日のベッドと引き換えに、いろいろなところの手伝いをしたのです。給料を貰える立場ではなかったので、上等な食事のためにはその分働きました。そんなタダ働きであっても、受け入れられるとは限らず、ひどい時には物乞いと間違われ、そうでなくても奇異な目で見られる事が多かったと思います。たまにお小遣いを頂けると、ほとんど全てを自分にとって一流の食事に費やしました。 食に関しては贅沢に育った私が、本来の意味で食べる幸せや喜びを知ったのは、この頃だったと記憶しています。
最終的には、ブルゴーニュの貴族の家に暮らす事となり、マダムから多くを教えられるのですが、この時代の良い事も、苦しかった事も、今の大事な材料になっています。外見よりも素直に美味しいと思って頂ける味を作りたいと願うのも、流行を追ったり、華やかさに走る余り、美味しさを支える基本と守るべき伝統を決して忘れるなという、ブルゴーニュの母の言葉を大切にしたいからです。“美しく飾った料理が美味しいとは限らないけれど、美味しい料理は美味しそうに美しい”と思うのです。
それから、多くのフランス料理屋さんの様に、いろいろなものを準備してお客様のご注文を待つというスタイルではなく、好き嫌いや、量的な事、ご予算などをもとにメニューを組み、料理を用意するという、あえて非能率的な方法をとっております。もちろん、作り置きはせず、お客様を特定した準備をする事で上質な素材を贅沢に使うという事もできております。
こういう事で、突然いらしたお客様に召し上がって頂くのは無理だという事をご理解頂けると思います。これが、完全予約制というまことに手前勝手な営業形態を取らせていただいている理由でございます。
また、ワインはお手軽なものに始まり、約200種類以上を店内二箇所のワイン庫に用意してございます。適正に管理されたワインや、安心で美味しい料理をどうか存分にお楽しみ下さい。